第四十話 オイル・ショック

 原付にのりはじめて半年。この頃、気になることが一つあった。

 それは速度メーターの横に法定速度を越えると赤く点灯する「speed」の下に
 oil
 という表示があるのだが、この表示が常に赤く点灯しているのだ。
 オイル・・・ガソリンのことか、自動車でも燃料が少なくなるとランプが点灯したりする車種もあるしな。と、思いガソリンをいれるのだがランプは点灯したまま。まあ、古い原付だから故障しているんだろうと思い、それ以降も気にせず原付に乗る。今までガソリンが少なくなってもつかなかったくせに、点灯しだしたと思ったら消えなくなるなんて・・・。


 そんなある日、親父が
「そういえば前に原付のったときオイルのランプついてたけど、オイルいれたか?」
 と訊いてきたので、
「いれたよ」
と回答。すると
「どこでいれたよ?」
「ガソリンスタンド」
・・・他にどこでいれると?
「ガソリンスタンドで? 高かったら?」
「いや別に、いつもいれてるし。」


 大体、なんで普段は訊かない値段のことなんか訊いてくるんだろう。ガソリンの値段が安いときに買ったガソリンの備蓄があるからそれを使えということか。確かに安くすむかもしれないが、ガソリンがなくなるたびに親父に入れてもらうのは面倒だ。


 そして数日後、
「オイルのランプついたままだったけど、本当にいれたのか?」
とまた訊いてきたので
「おう。ガソリンいれたけど、なんか表示が消えないんだよ。」
と回答。すると親父が
「ガソリン!? オイルってガソリンのことじゃないぞ!! エンジンオイルのことだぞ!!」
 エンジンオイルと言われて私ははっとした。そういえば自動車免許をとるときに自動車学校で習った覚えが・・・。
「エンジンオイル!? エンジンオイル交換ってこと!?」


 自動車の場合、エンジンオイルは走行距離にもよるが目安として半年ごとくらいに交換するのだが、原付の場合は、わざわざ交換時期の表示がでるのかと感心。と思ったら
「交換じゃなくて補充!!」
「え? 補充!?」


 そもそもエンジンオイルとはエンジンのピストンを動かす際に、ピストンを覆って、ピストンを潤滑に動かすために使われる潤滑油である。


 自動車などで使われている4サイクルエンジンの場合、潤滑油として使われたエンジンオイルは、循環して再び潤滑油として使われる。もちろん同じオイルを何度も使うことになるので、オイルはじょじょに劣化していってしまい、充分な役割をこなせなくなってしまう。そのため、エンジンオイルを定期的に交換する必要がでてくる。


 それに対して原付などで使われている2サイクルエンジンの場合、潤滑油としてエンジンオイルが使われるという点では4サイクルエンジンとかわりはないのだが、一度使われたエンジンオイルは循環することなく、ガソリンと一緒に燃やされ排ガスとして排出されてしまう。そのため、補充の必要がでてくるわけである。


 言うまでもなく、原付の場合はエンジンオイルの補給をおこたると、エンジンオイルがない状態で走ることになってしまい、最悪の場合、エンジンが焼きついてしまったりする。ゆえにわざわざオイルランプが点灯する仕組みになっているのである。


 ということで早速親父にオイルの補充の仕方を教えてもらうことにした。
 まず、ハンドルの下のほう・・・原付にのったときにつま先がくる所の正面に鍵穴があるので、原付の鍵を使って鍵をあけ、カバーをとる。するとオイルボンベがでてくるので、オイルボンベの蓋をとり、直接エンジンオイルを流し込む。


 ちなみにガソリンスタンドでいれてもらうことも可能だが、ガソリンスタンドでいれてもらうと、手間賃がとられてしまうので、自分でオイルを買っていれるほうが安くすむということ。確かに補充をするだけなのでセルフのガソリンスタンドで自分でガソリンを入れるのと同じ感覚であり、そう難しいことではない。しかし、知らないとは恐ろしいことである。下手したらエンジンが焼きついて原付に乗れなくなるところだった。原付はガソリンだけで走ってるんじゃないってことが良くわかった・・・。


 以上の話を基に、改めて本文の親父との会話を読むと、両者の想定しているオイルが違うがゆえに、ちぐはぐな会話になっているのが良くわかる(もっとも、オイルが何のことか知っている方は最初から何をいっているんだコイツは・・・という感覚だろうけど)。


 とんだオイル違いの話でした。



棒