第四十六話 天啓の幻

 二輪教習に通い始めて二週間・・・。技能教習第一段階を無事クリア。普通自動車の教習だと第一段階終了後に仮免試験を受けて路上教習となるのだが、二輪教習は路上教習がないので仮免という概念もなく、あっさり第二段階へと移行していく。てっきり第一段階で教習時間数がオーバー(課題がクリアできないため)するのでは? と思っていたが杞憂に終ったようだ。


 第二段階の最初の教習はシミュレーション教習だ。教習項目名は「路上運転に当たっての注意と法規走行」となっており、シミュレーターを使って市街地の走行を体験する。今回は男三人での教習となり、順番は自動車での路上走行経験がある人からということで、一番経験の少ない私が最後となった。

 普通自動車のシミュレーション教習もそうだったが、市街地のシミュレーションソフトはかなり嫌らしくできており、少しでも油断していると事故をおこしかねない。例えば左側に停車している車の前方(陰になっているところ)から人が道路を横断するために急に出てきたりするわけだ。また、ただ事故をおこさなければいいというわけではなくて、発進時の合図なども教官が逐一見ており、合図を出し忘れたりすると教官から指摘されてしまうのだ。


 私は前の二人と同じ失敗を繰り返さないように、二人のプレーをじっくりと観察した。何が出るか分からない一番最初のプレーも嫌だが、前の人たちのプレーをみているが故に失敗が許されない最後のプレーも嫌である。


 二人目のプレーが終った。いよいよ私の番だ。すると教官が。


「あと一つ気付いていない失敗点があるけどわかるかなあ?」


と挑戦的に私に言ってきた。


「?」


 前の二人のプレーで教官が指摘していないところで何かマズイところがあったようだが・・・。そんなところあった!? 私は全然見当がつかないままプレーに入った。前の二人が教官に指摘されたところを押さえつつプレーを続けていくが、教官の言っている失敗点がわからない・・・。すると・・・、


「あ、わかってますね。ちくちく言おうと思っていたのに・・・。」


 何が?
 知らない間に私は教官の言っていた「失敗点」をクリアしていたようだったが、当の本人は何のことだかわからない。そして、私のプレーがおわると教官は説明を始めた。


「車線変更のときは合図をだして三秒したら車線変更にはいります。でも、実際、道路で走っているとき三秒待ってから車線変更しようとしたら車線変更できなくなる。まわりの車が車線変更に気づいて詰めてくるから。車に乗りなれた人ほど忘れてしまっているんですよ。」


 ・・・そんなつもりは全くなかったんですけど・・・。


 ただ私はウインカー出し忘れによる減点を極度に警戒していたため、早めにウインカーをだしていただけなのだ。いやむしろ、ウインカーを出してから車線変更するまで単にモタついていただけなのかも・・・。どちらにせよ思わぬ副産物である。


 教官は私が「車線変更の三秒ルール」を意識してやっていたのではないことを知ると悔しがっていた(というより三秒ルールのことなんてすっかり忘れていた)。対して私は自分の思いもよらぬところで教官からの課題をクリアしていたので、ちょっと得意だった。まさか、二輪教習でこんな気分になれることがあるなんて・・・。


 教習が終ると、私は今後の教習の予約をとることにした。運よく一日二時間まとめて教習をうけれる日が何日かあったため、一週間後が最終の教習日となった。あと、一週間で卒業かあ・・・。


 え?
 あと一週間しかないの? 今日第二段階に入ったばかりなのに!? ここまでトントン拍子に進んできたが、ここにきて、かえって不安になってしまうカリウスであった・・・。


 卒業検定大丈夫!?




棒